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技術を向上させたテキストと技術会、鑑評会/今井誠一さんインタビュー Vol.4
Posted on 2021年3月23日
by MADE IN NIIGATA
——平成2年に発刊した『味噌技術読本』とは?
昭和45年度にみそも技能検定をやることになり、メーカー側からそのための講習会を複数回開いてほしいという要望をいただきました。そのテキストとして使ったのが『味噌の基礎技術』でした。
このテキストで勉強会をやり、合格率は90%くらいまでに達しましたが、技術ハンドブックとしては物足りなかった。そのため全面的に稿を改めタイトルも変えて作ったのが『味噌技術読本』です。県内だけの頒布にとどまるつもりが、他県からも注文があれば販売しており、大変好評で、「(財)日本醸造協会発行の『味噌の醸造技術』よりも上をいっているのでは」という高評価もあったようです。
この本の改訂版を望む声もあるようですが、全国味噌技術会から平成18年に、私も共同執筆した『新・みそ技術ハンドブック』が発刊され、データ的にも、新潟県外のみそについての解説においても、この本で十分かと思っています。
しかしながらハンドブックですから、近くに置いて、何度も精読し、本から得られる知識や知恵を現場で活用しないと意味がないと思っています。
——「全国味噌技術会」によって得たことは?
「全国味噌技術会」は昭和28年に設立されましたが、平成21年に諸般の事情により解散し、大変惜しまれています。会員の構成は新潟の場合と同じです。みその技術者、研究者、経営者、関連企業の技術者たちで構成され、多いときで500名を超える会員数でした。これは単独業種の技術会としては多い方だといわれていました。
月刊で会報誌を発行し、研究発表も行いました。学会での発表は二の足を踏む人も、「こちらの研究発表はしたい」という人が結構いましたね。特にメーカーの現場の方たちです。発表を通して他社の人たちがヒントをもらうことも多かったようです。研究発表会や講習会で全国の方たちとつながることができましたね。技術者は虚心坦懐な部分がありますから、お互いに持っている技術を言葉の上で教え、教えられました。
——具体的に本県のみそ技術向上につながったことは?
「新潟県味噌技術会」でも、この会を通じて知り合った他県の方たちを講師に招きました。それにより、新潟県のみそ技術が向上したのは間違いありません。その最たるものがみその色調の向上です。
袋詰めで市販されるようになってから、消費者はきれいな色のものを買うんですね。新潟県はその面で少し後塵を拝していたので、長野の人から、赤みそでは赤いなりに赤みが冴え、淡色みそでは黄色みが冴える、そういう方法を教えていただきました。
もう一つは、白甘みそ、すなわち「西京みそ」の技術です。塩分が普通のみその半分以下の4~5%で、みそ汁用ではなく、加工に使うみそとして、本県でも鮭のみそ漬けなど需要が大きかった。これを京都や広島から購入するとコストがかかるので、県内メーカーが自社で造れるよう、京都や広島の先生を呼んで話をしてもらいました。皆さん話をしてくれるんですよ。本当のところまで。耳学問としてわかったことを現場でやってみて、自信がなければ、研究所の職員が立ち合うこともありました。白さが冴えなければダメなんです。灰色がかった白では、漬物の床としても問題がある。「全国味噌技術会」で他県の技術者との交流が生まれたことが、このような大きな成果として表れています。
——今井先生が審査員を務められていた「全国味噌鑑評会」の経験で特筆すべきことは。
鑑評会は昭和30年から始まり、令和2年は残念ながらコロナ禍で中止になってしまいましたが、令和元年度まで62回開催されており、今年は開催の予定で準備されているようです。
私は30歳半ばから、新潟県2人の枠の1人として、トータルで31回審査を務めさせていただきました。最初の頃、一番苦労したのは、新潟県のタイプのみそが、麹が見えるという特徴で逆に全国的には評価をされず、別の審査員の方々に正しい情報を伝えてわかっていただくことでした。
評価のメインは色と香りです。色の冴えがよく、香りのよいものはほぼ味もいい。それは経験測からほぼ断言できます。
——〈田中〉評価ポイントとして滑らかさというのもあると聞いたことがあるのですが。
そうですね。それはスプーンでなでてみるとわかります。食べてみればなおさらわかりますが。
——〈田中〉例えば新潟県のみそは「信州みそ」と比較したときに水分が多いですよね。そういった場合、樽に盛って売るのが難しいなど売り方の問題もあるとは思いますが、審査に影響はありましたか?
新潟県のみその水分については、影響はありませんでした。やはり粒みそで浮き麹を理解してもらうことに数年かかりましたね。ただ理解してもらえると、がぜん新潟県のみその評価は高くなりました。
昭和50年代になりますと本県のみそは赤みその部門で全国最高の評価を得るようになりました。それに伴い、この頃から本県のみそ業界から「現代の名工」が誕生し始めました。最高賞である農林水産大臣賞を何回とったかが客観的評価になるからです。最初にこの大臣賞を取ったのは佐渡のマルダイ、その後、小千谷の山崎醸造、聖籠町(当時新潟市)の渋谷味噌と続きます。
——ほかに、鑑評会の審査で印象深かったことはありますか?
私は新潟ですから米みその出身ですが、数年経つと「ベテランだから」と豆みそや麦みそ、甘みその審査も命じられました。会場に入ってから突然言われるので、正直困惑しました。ですが、みそは発酵食であるという基本の信念をもって評価しました。そうすると、地元の人との評価はそれほど大きく違わないんですね。
驚いたのは「八丁みそ」。豆みその中でも特別ですね。みそ玉を作るのですが、その玉が大きい。大きな玉の中に乳酸や酢酸が生成するから酸味が強いですし、一方でたんぱく質の分解が進んでいるので苦い。それが本来の「八丁みそ」の特徴であることは次第にわかってきました。
また、能登のみそはしゃぶしゃぶの、流れるようなみそなんです。熟成が途中段階の、よく発酵していないものです。「これはみそと言えるのだろうか?」と疑問を抱きましたが、地元の方から「魚を使ったみそ汁にはこのみそでないと、魚のうま味が発揮されない」と聞き、大変勉強になりました。
——〈田中〉佐渡のみそ蔵で同じような話を聞きました。漁師が船の上で捕れたてのタラを鍋に入れ、水とみそを入れるだけの佐渡の郷土料理「すけと汁」には、このみそじゃないとダメだと。その蔵のみそも、かなりやわらかいものでした。
みそにも風土との関係性があるようですね。
「現在も活躍する酵母と本県生まれの製法」へとつづきます
(プロフィール)
今井誠一(いまい・せいいち)
農学博士。1937年に燕市吉田(旧西蒲原郡吉田町)で生まれる。新潟大学農学部卒業後、新潟県食品研究所に入所。みそやしょうゆなどの大豆発酵食品の研究及び技術指導に従事。93年には、科学技術庁長官賞を受賞。90年から95年まで所長を務め、同年退職。全国味噌鑑評会審査員を31回務める。新潟県味噌工業協同組合連合会顧問、全国味噌技術会常任理事を歴任。著書は『食品加工シリーズ 味噌-色・味にブレを出さない技術と販売』(農山漁村文化協会)、『みその絵本』(同)。
〔聞き手・文〕
高橋真理子:群馬県出身。大学卒業後、絵本、生活情報誌『レタスクラブ』編集部を経て、結婚を機に新潟へ移住。フリーの編集・ライターとして『るるぶ』『新潟発』に関わり、新潟の食と酒の魅力を伝える出版社・株式会社ニールを設立。『cushu手帖』、『新潟発R』を発行。著書は『ケンカ酒 新潟の酒造り 小さな蔵の挑戦』。現在も四季折々の新潟の美味に感激し、堪能する日々を送る。
〔お問い合わせ〕
今回の取材は、新潟県雪国の発酵食文化発信事業の一環で取り組みました。
新潟県農林水産部食品・流通課
025-280-5963
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