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新潟県の食文化における発酵食品の存在/本間伸夫さんインタビュー Vol.3
Posted on 2021年3月18日
by MADE IN NIIGATA
新潟県の発酵食を考える上で、土台となるのは何といっても新潟の食文化です。食文化を知るバイブルともいえる1985(昭和60)年に発行された『聞き書 新潟の食事』(農山漁村文化協会)の編集委員代表を務め、自身でも『食は新潟にあり』(新潟日報事業社)などの著書で新潟の食文化を紹介し続けてきた本間伸夫さんにお話を伺いました。
——食文化から見た発酵食品とは。
発酵食品の大部分は清酒の類です。
そしてもう一つはみそやしょうゆ、香辛料などの調味料。
栄養があるからとるということでは必ずしもなく、生活のレベルをアップする、豊かにするための食品です。発酵食品は広い意味で嗜好品の一種といえます。
——発酵食品の定義とは。
発酵食品とは、微生物を利用して食材を変質させながら多様化するものですが、発酵食品かどうか迷うものもあります。例えば、塩辛は発酵食品でしょうか?
雪中貯蔵もそうなのですが、「熟成」には微生物が関係しておらず、それ自体が持っている酵素を利用するということです。
「熟成」は広い意味の発酵でもありますが、分けて考え、「熟成」による食品もうまく活用していけるとよいと思います。
——新潟県の発酵食品の特徴は。
他県にはない、というものはありませんが、風土特性により、米と大豆を利用するものが多いのが特徴です。清酒、米みそ、しょうゆ、漬物などがそれにあたります。
——県内各地の発酵食品にはどんなものがありますか?
2008(平成20)年に発行した『食は新潟にあり』で取り上げた食べ物の約3割が発酵との関係が認められます。
中でも興味深いのが、米または麦麹を利用する村上の「飯(い)ずし」、阿賀町津川の「身欠きニシンの麹漬け」、魚沼の「ニシンダイコ」、妙高の「かんずり」、県内各家庭で作られる「べったら漬け」「三五八(さごはち)漬け」などです。
酪農があまり進んでいない本県にありながら、搾りたて生乳を使った高品質なドリンクヨーグルトを製造している安田ヨーグルトは成功例の一つですね。
前述した熟成を利用しているものでは、村上の「鮭の塩引き」「鮭の酒びたし」、新発田の「から寿し」、旧巻町角田浜の塩漬けイワシの汁に大根を漬ける「生ぐさこうこ」、佐渡の「ワサビの醤油漬け」「フグの子の粕漬け」などがあります。
——発酵食品としての酒類についてはどのように感じていますか?
今後は特に海外展開が期待されます。
さらに、カーブドッチワイナリーのガーデン型の複合的な醸造所や、八海醸造の「魚沼の里」、朝日酒造の里山全体を保全しながら人を呼ぶ取り組みのように、交流人口増加の切り札になるような取り組みが興味深いですね。食で観光客を呼び込む手法として注目しています。
発酵の町として発信に力を入れている新潟市の沼垂や長岡市の摂田屋、上越市の発酵業者の連携にも、通じるものを感じます。特に、2020年秋に「機那サフラン酒本舗」の米蔵をリノベーションした摂田屋の取り組みは、今後の成功に大きく期待しています。
——県内の発酵食品の中で今後注目するものは?
県全体で作られている漬物の中で、個人的に興味を持っているのが「山海漬」です。
酒粕を使うことで塩気が少なくて済むこと、県産野菜と北海道産の数の子を使うことなどで、山海の珍味として話題性に富んでいます。
また、数の子が担っている「海」の部分を別の海産物で代用するなど、試してほしいですね。酒粕は保存性があるので、いろいろなトライができるのではないでしょうか。
——本県では魚醤文化があまり発達しなかったのはなぜですか。
魚醤文化で知られているのが秋田県と石川県で、どちらもある時期に、集中的に特定の魚介類がとれる環境があります。
秋田のハタハタ、能登のイカなどが山のようにとれ、それを塩漬けして魚醤を作る。新潟県にはそれに匹敵するような魚はなかったのではないか、または米があったため、海に向かっての関心が薄かったのではないかということが考えられます。
現在、糸魚川市の県立海洋高校で魚醤を作っていますが、魚醤の市場は小さいので、ストーリーとともに、新潟県独自の土産物として展開していってほしいですね。
人間は命を守るために、食べ物に対しては保守的であって、未知の新しいものには軽々しく飛びつかない傾向があります。
「新潟県の食文化の継承と発展」へとつづきます
〔プロフィール〕
本間伸夫(ほんま・のぶお)
農学博士。専門分野は食文化論。1931年に佐渡市(旧畑野町)で生まれ、幼少時から長岡市で育つ。現在は新潟市在住。新潟大学卒業後、新潟県食品研究所で発酵食を研究、県立女子短期大学(現新潟県立大学)開設を機に教職に就く。食文化論の中でも地域性に注目し、フィールドワークを重ね、他県と比較することで新潟県独自の食文化の価値を検証してきた。その間、新潟県生活文化研究会の創立に関わり、初代会長を務める。著書は『食は新潟にあり』(新潟日報事業社)、『日本の食生活全集・聞き書 新潟の食事』(農山漁村文化協会)など。JR東日本の車内誌『トランヴェール』にも多数執筆。
〔聞き手・文〕
高橋真理子:群馬県出身。大学卒業後、絵本、生活情報誌『レタスクラブ』編集部を経て、結婚を機に新潟へ移住。フリーの編集・ライターとして『るるぶ』『新潟発』に関わり、新潟の食と酒の魅力を伝える出版社・株式会社ニールを設立。『cushu手帖』、『新潟発R』を発行。著書は『ケンカ酒 新潟の酒造り 小さな蔵の挑戦』。現在も四季折々の新潟の美味に感激し、堪能する日々を送る。
〔イラスト〕
すがい敦子:『新潟発R』2018秋冬・8号「旅するFOOD」より
〔お問い合わせ〕
今回の取材は、新潟県雪国の発酵食文化発信事業の一環で取り組みました。
新潟県農林水産部食品・流通課
025-280-5963
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