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乳酸菌醗酵酒粕「さかすけ」を知る Vol.3/「さかすけ」の機能性
Posted on 2021年7月29日
by MADE IN NIIGATA
日本酒を搾ったときに清酒とともに生まれる酒粕は、「カス」の名は付けども、栄養価が高く、機能性にも優れた素晴らしい食品です。その酒粕が廃棄されるなど、行き場を失っているのが「もったいない!」という思いから開発されたのが、乳酸菌醗酵酒粕「さかすけ」。
生みの親である新潟県醸造試験場長の金桶光起さんと、さかすけ推進協議会委員長を務める緑川酒造の瀨戸晶成さんに、「さかすけ」の開発経緯や特徴、現状、将来について伺い、その魅力に迫ります。
——「さかすけ」にはどんな機能性がありますか?
金桶 動物実験の結果だけですが、マウスのアレルギー性鼻炎の抑制効果と、ラットの脂質代謝の改善効果ですね。人体実験をしていないので、人にどのように効果があるのかは実証されていませんが、水を飲んだ場合と、「さかすけ」のドリンク、酒粕のドリンクを飲んだときで、効果が出た(統計的に優位であった)のが「さかすけ」でした。もちろん、酒粕そのものにある機能性は「さかすけ」にもありますので、それにプラスしてということです。
——製造工程としては、最初に酒粕を蒸してから、菌を植え付けるのですね。
金桶 酒粕には平均して10%ほどのアルコール分があります。「さかすけ」の製造工程で酒粕を蒸すことで、このアルコールがほとんどなくなります。ちなみに酒粕のアルコールは煮てもとびません。
アルコールが0になることと、ペースト状になるという形状が、「さかすけ」の最大の特長です。ヨーグルトの形状をイメージして開発しました。
——アルコール分がないので子どもでも食べられますし、使いやすいということですね。
金桶 ヨーグルトのように、朝から食べても問題ありません。いろいろな料理にも使えます。
——酒蔵ごとの「さかすけ」の味や香りの違いは、ベースになっている酒粕の違いですか?それとも加工方法の違いでしょうか?
金桶 原料の酒粕の違いが大きいと思います。また、酒蔵によっては使っている乳酸菌が違う場合もありますので、その影響もありますね。
——例えば吟醸などの高級酒の酒粕を使った場合と、普通酒や本醸造クラスの酒粕を使った場合で、何か傾向はありますか?
金桶 そのあたりの詳しい研究はまだですが、吟醸粕を使うと、吟醸のフレーバーが残った「さかすけ」を造ることができます。
——全体的な味の特徴や食べ方は?
瀨戸 酸味が強いので、味はヨーグルトよりもサワークリームに近いですね。タンドリーチキンとかボルシチなどに使えそうです。しかしこれはヨーグルトやサワークリームの代わりということですから、「さかすけ」ならではの使い方が重要です。
金桶 「さかすけ」を使ったアイスクリームは卵や牛乳を使わないので、乳のアレルギーフリー食品です。米が原料なので、グルテンフリーを強みとする米粉のような使い方はいろいろ考えられそうです。
——「さかすけ」は植物性ということですよね。
金桶 植物性、動物性という言葉はあまり使いたくないと思っています。よく植物性乳酸菌と動物性乳酸菌と言われますが、その区分は学会で正式に認められた言葉ではありません。
要は米なので、米のアレルギーを持っている人を除き、アレルギーフリーの食品ができるという強みがあります。
さらに、もともと酒粕は栄養価が高い食品なので、乳酸菌で発酵させて形状を変えて、食味も変えることによって、介護食や嚥下(えんげ)食への展開もできる素材になっています。こういった方面を考えていけば、今まで使っていた乳製品の代替ではない使い道の可能性が広がります。
——ダイレクトに「さかすけ」を食べたり飲んだりできる商品の可能性は?
金桶 砂糖などで甘みをつけて、濃度を、例えば10%くらいにすると、味的にスポーツドリンクのようなものになります。有名どころのスポーツドリンクの味に似ています(笑)。栄養価が高くて酸があって、ということになると、ちょっと運動したときに「キュッ!」と飲むドリンクもできますね。売り方も、凍結乾燥させておき、そこに糖分を入れておけば、粉末のスポーツドリンクという展開もいけそうです。
——食品としての「さかすけ」の製造元として、酒蔵が収益を上げることもできますね。
金桶 そうですね。開発の初期段階では、新潟県で生産される酒粕の5%を「さかすけ」にした場合、55億円くらいの売り上げになるという試算でした。高級なヨーグルトと同じくらいの価格を付けた場合ですが。数字はともあれ、そういった夢を持って取り組まれる酒蔵があれば、いくらでも伸び代はあると思っています。
「さかすけ推進協議会の取り組み」へとつづきます。
(プロフィール)
金桶光起(かねおけ・みつおき)
昭和37年(1962)、岐阜県高山市生まれ。岐阜大学大学院修士課程修了後、乳業メーカーに勤務。その後大学院の博士課程を修了、農学博士。平成7年に新潟県醸造試験場に入庁し、微生物や乳酸菌、日本酒の異臭などを研究。平成28年に新潟県醸造試験場第7代場長に就任。
瀨戸晶成(せと・あきなり)
昭和34年(1959)、神奈川県藤沢市生まれ。中央大学理工学部卒業後、工業系メーカーなどを経て、平成7年に緑川酒造入社を機に、妻の実家がある新潟県に移住。管理部部長。さかすけ委員会では準備委員会時代から現在まで委員長を務める。新潟清酒学校講師(数学・物理・化学担当)。
〔聞き手・文〕
高橋真理子:群馬県出身。大学卒業後、絵本、生活情報誌『レタスクラブ』編集部を経て、結婚を機に新潟へ移住。フリーの編集・ライターとして『るるぶ』『新潟発』に関わり、新潟の食と酒の魅力を伝える出版社・株式会社ニールを設立。『cushu手帖』、『新潟発R』を発行。著書は『ケンカ酒 新潟の酒造り 小さな蔵の挑戦』。現在も四季折々の新潟の美味に感激し、堪能する日々を送る。
〔お問い合わせ〕
今回の取材は、新潟県雪国の発酵食文化発信事業の一環で取り組みました。
新潟県農林水産部食品・流通課
025-280-5963
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