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雪室育ちの乳酸菌ウオヌマ株の特長とその利用
Posted on 2021年10月9日
by MADE IN NIIGATA
新潟県は日本有数の豪雪県であり、日常生活や経済活動への影響を最小にする「克雪」だけでなく、観光や雪室など貴重な地域資源として活用する「利雪」を進めてきました。雪室は環境負荷低減の観点から注目され、保存食材の一部について食味で高く評価されていましたが、雪室保存の有効性に関する科学的検証は十分ではありませんでした。
2009年春、新潟県農業総合研究所食品研究センター(新潟食研)では、雪室保存した食材の食味向上に関する科学的検証をはじめました。その中、西脇主任研究員(現食品工学科長)は、魚沼市の農業組合法人が所有する雪室で、保存中の野沢菜漬の経時変化を追っていました。
野沢菜漬は0℃付近の低温域に関わらず、酸味が増し、雑菌もみられず、良食味を形成していました。西脇は低温で増殖する乳酸菌がこの環境で働いていることを確信するとともに、低温増殖性の乳酸菌を活用した雑菌増殖抑制について着想し、2011年冬、雪室の野沢菜漬から乳酸菌を80株分離しました。
当時、新潟食研では微生物の菌種を同定するノウハウが無かったので、西脇は依頼研究員制度を利用し、菌種同定手法を学ぶため、つくばの農研機構食品総合研究所(現農研機構食品研究部門)に向かいました。
東日本大震災の直後で余震が続き日常生活も大変な中、食品総合研究所では温かく迎え入れてくれました。
持参した80株を遺伝子パターンでグループ分けしたところ、ほぼ3株に集約され、菌種は3株とも乳酸菌Lactobacillus sakei(1)と判明しました。
日本酒の生酛(きもと)造りに関わる乳酸菌であることから、清酒王国新潟らしい菌株であり、地域資源としての活用に期待が膨らみました。
新潟に戻った西脇は、3株のLactobacillus sakeiが栄養要求性の異なる別の種類の乳酸菌であることを確認し、3株をまとめて乳酸菌ウオヌマ株(ウオヌマ-1, ウオヌマ-2, ウオヌマ-3 )と命名しました。
ウオヌマ株の発酵試験を行い、3つの特性①低温増殖性(5℃)、②雑菌増殖抑制、③低酸産生性(過度に酸っぱくない)を明らかにし、低温下で速やかに増殖し、雑菌の繁殖を抑制できる利用技術として、2012年に特許出願しました(特許第5577559号)。
乳酸菌はイメージから乳製品の発酵に向いていると思われがちですが、ウオヌマ株は野菜や果物など植物性素材を発酵させることが実は得意です。
18種の野菜・果物ペーストにウオヌマ株を発酵スターターとして接種した場合、半数以上の食材で発酵が進み、特にアスパラガス、にんじん、地域特産野菜かぐらなんばんの発酵が順調で、適度な酸味や風味が醸されました。
また、ウオヌマ-1株には機能性アミノ酸の一つで肝機能改善効果があると言われるオルニチンが付与されることが明らかになりました。ウオヌマ株を用いることで、加熱殺菌を行なわずとも、雑菌を低減した野菜・果実ペーストを作ることができ、野菜・果実が本来もつ特性を活かした食品素材の開発が可能となることを2016年の新潟県研究成果情報(2)で示しました。
ウオヌマ株の産業利用上、菌株の権利保護、維持管理、利用商品の差別化を図る必要があり、PCR法(特定の遺伝配列を増幅する技術)により、ウオヌマ-1, -2, -3株の有無について個別に確認できる技術を2018年に開発しました。
現在、ウオヌマ株は県内食品企業14社から実施許諾申請を受け、乳酸発酵甘酒、糠漬、漬物、野菜ペースト、ヨーグルト、ジェラートなど、様々な食品に利用され、新商品開発に結びついています。特に、新潟県農林水産部食品・流通課所管、雪国の発酵食文化発信事業「新潟の発酵食研究会」において、新潟食研が会員企業に乳酸菌の技術シーズを提供し、新商品開発を支援しています。研究会の中でウオヌマ株を利用した商品が2020年度に2件上市されました。新潟食研では地域オリジナル乳酸菌に対する企業ニーズの高さからウオヌマ株に続く新潟県の地域資源となる新たな乳酸菌の分離を進めており、長岡市山古志地域の伝統発酵食から分離した乳酸菌をヤマコシ株と命名し、その利用技術について2020年に特許出願しました。
(1)現在の種名: Latilactobacillus sakei
(2)https://www.pref.niigata.lg.jp/uploaded/attachment/216413.pdf
〔お問い合わせ〕
今回の取材は、新潟県雪国の発酵食文化発信事業の一環で取り組みました。
新潟県農林水産部食品・流通課
025-280-5963
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