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新潟県のみその種類と歴史/今井誠一さんインタビュー Vol.1
Posted on 2021年3月20日
by MADE IN NIIGATA
令和2年11月8日に新潟駅直結のMOYORe:(モヨリ)ホールで開催した「新潟、発酵中」のトークイベントでは、百川(ももかわ)味噌(新潟市)の百川伸宏さんと、山本味噌醸造場(上越市)の山本幹雄さんに、本県のみそメーカーの立場から、現在の取り組みやこれからの新潟のみそについての思いを語っていただきました。
本県の発酵食品におけるみその存在は大きいものです。今回は、元新潟県食品研究所(現新潟県食品研究センター)所長でみそ研究の第一人者である今井誠一さんに、本県のみその「生業」について伺いました。
「新潟、発酵中」のトークイベントでファシリテーターを務めたぽんしゅ館総括バイヤーの田中竜男さん同席のもと、「生業」の歴史や特徴、これまでの組合の取り組みに、メーカーの商品開発や消費者がみそを楽しむヒントを探ります。
(プロフィール)
今井誠一(いまい・せいいち)
農学博士。1937年に燕市吉田(旧西蒲原郡吉田町)で生まれる。新潟大学農学部卒業後、新潟県食品研究所に入所。みそやしょうゆなどの大豆発酵食品の研究及び技術指導に従事。93年には、科学技術庁長官賞を受賞。90年から95年まで所長を務め、同年退職。全国味噌鑑評会審査員を31回務める。新潟県味噌工業協同組合連合会顧問、全国味噌技術会常任理事を歴任。著書は『食品加工シリーズ 味噌-色・味にブレを出さない技術と販売』(農山漁村文化協会)、『みその絵本』(同)。
——令和2年12月18日に「越後みそ」は地域団体商標に認定され、地域ブランドとして今後ますます地域活性化を担うべきものになりました。県内みそメーカーが製造する「越後みそ」の特徴とは何ですか?
地域団体商標とは切り離して考えて、新潟のみそは大きく「佐渡みそ」と「越後みそ」に分けることができます。
明確な定義はありませんが、その特徴と歴史には明らかな違いがあります。その説明をする前に、みその基本を押さえておきましょう。
みそには必ず大豆を使います。
それとともに、麹の原料として米を使うのが「米みそ」、麦を使うのが「麦みそ」、大豆を使うのが「豆みそ」。新潟県のみそは「米みそ」です。その中でも、色が赤っぽくなるまで発酵、熟成させたものが「赤みそ」、色が淡いものが「淡色みそ」です。
製品の形態では、大豆を完全にこしてあるか、それとも麹や大豆が破片の形で残っているか。
大豆の場合は全粒で残っていることはないので、四つ割れ、六つ割れ、八つ割れなどの状態で残っているものを「粒みそ」、こしてあるものを「こしみそ」といいます。
——「佐渡みそ」の特徴は。
「佐渡みそ」は米みその中の赤みそに属し、製品の形態はこしみそです。麹歩合※は6から8歩で、「越後みそ」に比べると少なめです。
発酵過程は天然熟成に近く、割と長いですね。
長期熟成するため特有の重厚な風味になると言われています。熟成期間はメーカーによってさまざまですが、一般に長期というと半年以上ですね。
※麹歩合(こうじぶあい):米と大豆の使用比率で、米の使用量を大豆の使用量で割って10をかけたもの
——「越後みそ」の特徴は。
佐渡と同じ米みその中の赤みそに属し、製品の形態は粒みそが主体です。
しかし粒みそといっても、全国的に粒みそで有名な「仙台みそ」が大豆の破片が残っているのに対し、「越後みそ」は米麹が粒のまま残り、大豆はこしてあります。このことが「越後みそ」の最大の特徴で、別名「越後の浮き麹みそ」とよばれる理由です。特に上越地域に多く見られます。
一見米麹そのものが残っているように見えますが、実際には米麹の内容物は溶け出ていて、麹菌の菌体が絡み合って袋状になったものが残っています。
みそ汁にしたときにこれがふわっと浮いてくることから「浮き麹」の名前が付きました。
——なぜ米麹の菌体だけが残るのですか?
大豆を煮たり、蒸したりした後、荒く砕き、つぶしたものに塩と麹を加えて、適度な水を加えて仕込むのが粒みその製法です。
ところが「越後みそ」は、大豆を煮たり、蒸したりした後、1ミリから3ミリくらいの細かい目でこしてから、麹と食塩を混ぜて仕込みます。仕込みの際も麹を壊さないように工夫してかき混ぜるため、そのまま残るのです。
——「越後みそ」の中でも、中越や下越の特徴は?
上越のみその麹歩合が10から12歩、大豆は「煮る」のが主体で赤みその中でも色が淡い部類なのに対し、中越・下越のみそは麹歩合が7から8歩、大豆は「蒸す」のが主体で、色は上越よりやや濃いのが一般的です。
——味の違いはありますか?
上越のみそは大豆由来のうま味に、米由来のやさしい甘味が加わり、新鮮で爽やかな香りを放ちます。
中越・下越のみそは地域によりいろいろではありますが、総じて、大豆と米に由来したしっかりとした、バランスのよいうま味と、華やかな芳香を有するという評価があります。
——同じ「越後みそ」で違いがあるのはなぜでしょうか。
自家醸造みその歴史から、みそ玉を作るか作らないかが影響していると考えられます。
上越ではみそ玉を作らず、特に中越あたりではみそ玉を作ってみそを仕込む食文化がありました。
——〈田中〉私は南魚沼市出身なのですが、亡くなった祖父がみそ玉を作っていたのが、幼い頃の記憶としてありますね。
昭和40年ころまでは、中越地域ではみな作っていたようです。
蒸した大豆を丸めて、放置して自然にカビが生えるのを待ち、その後洗って、刻んで、少量の米麹と合わせて仕込みました。上越はみそ玉を作らなかったので、その分米麹を多く使ったのだと推察されます。
——浮き麹タイプは同じ上越地域に酒蔵が多いことから、酒造りの影響とも聞きますが。
浮き麹と日本酒麹の関連性はないと思われます。
それは、同じ米麹でもみそと酒は似て非なるものだからです。日本酒は米をできるだけ削って雑味を除き、突き破精(はぜ)麹を作ります。
一方でみそは飯米と同じ9割くらいの精米歩合で、米全体に厚く菌が増殖する総破精(はぜ)麹を作ります。
——〈田中〉以前みそ屋さんから、総破精でないと酵素量が足りないと聞いたことがあります。
そうなんです。
突き破精では大豆をアミノ酸までに分解しきれないんです。
以前、酒の麹を調べてみたら、アミラーゼはあるのですがプロテアーゼはみその米麹の10分の1くらい。こういう麹で酒を造っているのかと、驚きました。アミノ酸が出なくて淡麗な味になることが、酒に向いているのだと。
また、麹が総破精でないと溶けてしまい、浮き麹になりません。以前、上越のみそ屋さんに伺ったところでは、米をたくさん使っていることをアピールするために浮き麹になったと。
そう考えると、浮き麹は米どころという風土が生んだみそと言えるかもしれませんね。
——「佐渡みそ」の歴史は?
商売としての佐渡みその発祥は金山と密接な関係があります。
慶長6(1601)年に佐渡金山が発見され、地元相川の最盛期の人口は5万人とも10万人とも言われ、一大消費地が形成され、みそ屋もあったと考えられます。現在この地にみそ屋はありませんが、「味噌屋町」の町名は残っています。
江戸時代末期から明治初期にかけて、開拓が進んだ北海道へ、日本海航路の北前船の寄港地だった小木港からみそが積み出されたようです。
北海道は佐渡からの移住者が多く、寒冷なのでみそを製造できなかったこともあり、移出は増えていきました。さらに海運の発達で千島、カラフト、朝鮮半島や満州まで販路が拡大。
国内では大正12(1923)年の関東大震災に際しての救援供給がきっかけで販路を広げました。島内には約50軒のみそ屋があったという記録が残っています。
——「越後みそ」の歴史は?
佐渡の生い立ちとは異なります。
商工業としての発祥は長岡市の本町二丁目にあった上州屋醸造所と伝わっています。
上州大胡(おおご)城主だった牧野忠成が越後に入り、元和4(1618)年に長岡藩主となったとき、上州屋の初代伝兵衛が同行し、しょうゆとともにみそを造り、武士や町人に販売していたようです。同じ城下町の村上や新発田、高田にも伝統ある古い業者が存在します。現在はやめた方も多いですが……。
明治維新後は殿様の保護がなくなり、明治半ばころから新潟市、当時の沼垂町あたりにみそ製造業者が誕生しました。
しょうゆやみそ屋は大地主ではなく、中小地主が主体だったのも興味深いですね。大地主の分家クラスが酒蔵、中小地主がしょうゆ業を営み、サイドワークでみそを造っていた。新潟市は少し違い、通船川を利用して商売を営んでいた回船問屋や米の仲買人がみそを製造していたようです。
みそ業の場合、食文化的な風土との関連は薄かったようです。こういう野菜があったから、そのみそ漬で生業を立てる、というような、漬物業のような事例は見られません。
「組合の発端とこれまでの活動」へとつづきます
〔聞き手・文〕
高橋真理子:群馬県出身。大学卒業後、絵本、生活情報誌『レタスクラブ』編集部を経て、結婚を機に新潟へ移住。フリーの編集・ライターとして『るるぶ』『新潟発』に関わり、新潟の食と酒の魅力を伝える出版社・株式会社ニールを設立。『cushu手帖』、『新潟発R』を発行。著書は『ケンカ酒 新潟の酒造り 小さな蔵の挑戦』。現在も四季折々の新潟の美味に感激し、堪能する日々を送る。
〔お問い合わせ〕
今回の取材は、新潟県雪国の発酵食文化発信事業の一環で取り組みました。
新潟県農林水産部食品・流通課
025-280-5963
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