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乳酸菌醗酵酒粕「さかすけ」を知る Vol.5/新潟県と発酵食の今後への展望

Posted on 2021年9月13日

by MADE IN NIIGATA


日本酒を搾ったときに清酒とともに生まれる酒粕は、「カス」の名は付けども、栄養価が高く、機能性にも優れた素晴らしい食品です。その酒粕が廃棄されるなど、行き場を失っているのが「もったいない!」という思いから開発されたのが、乳酸菌醗酵酒粕「さかすけ」。

生みの親である新潟県醸造試験場長の金桶光起さんと、さかすけ推進協議会委員長を務める緑川酒造の瀨戸晶成さんに、「さかすけ」の開発経緯や特徴、現状、将来について伺い、その魅力に迫ります。




(プロフィール)


——新潟県の発酵食において、改めて「米麹」について注目してみてはという声もありますが、金桶場長はどう思われますか?

金桶 米麹自体の機能性も報告されており、塩麹への活用などもありますが、もともと麹というものは物質生産に対して非常にいい材料なんです。多くの微生物は自分の体の中に有用なものをため込むため、それを取り出すために細胞を破壊しなければいけないという手間がかかるのですが、麹はそれを外に分泌してくれるという性質が高いんです。だから今各所でいろいろ研究されているように、有用物質を生産する生物工場としても、麹は使われつつあります。



——具体的にはどのようなことが考えられますか?

金桶 人にとって有用な機能をもつものを、麹を作る過程で作らせて、それを清酒に取り込んでいくことができます。機能性のあるアルコール飲料は売れないというジンクスはありますが、将来的に、人の身体に有用なドリンクができる可能性もあります。

微生物がもともと持っている機能を、日本の伝統的な麹づくりの中に入れ込んでいくことで、その最終生産物が身体にいいものになる。酒粕にも機能性が出てくるわけで、その酒粕を使った「さかすけ」も当然のことながら有用なものになります。

食品ではありませんが、花王と月桂冠が共同開発した白髪染めも、麹菌の働きを利用したものです。



——「さかすけ」開発当初に描いていた夢は、今も変わりませんか?

瀨戸 そうですね。なればいいなと思っていますが、参加する酒蔵がなかなか増えていないのが現状です。酒造組合の総会でも毎年募ってはいますが、なかなか…。

——5年後、10年後の理想の姿は?

金桶 本気で取り組む企業が出てきてほしいなと思います。まずは何年か後には形態が変わっていく方向にならないとダメだと思います。

今までは酒蔵さんの利益のためにということでやっていますが、極端な話、「さかすけ」を造るための共同出資した施設を造り、そこでしっかりと打ち出していくという方向性も考えられます。それができれば、介護や給食での活用も可能になります。




——新潟県が誇る機能性の高い食材の一つとして、子どもたちやお年寄りも気軽に味わえ、より健康になれるのが理想ですね。

金桶 そうですね。SDGs(持続可能な開発目標)の取り組みにもきちんと入っているものですので、そういったところもしっかり知らせていきながら展開していきたいですね。酒粕は伝統的な日本の食文化ですから。




金桶光起(かねおけ・みつおき)

昭和37年(1962)、岐阜県高山市生まれ。岐阜大学大学院修士課程修了後、乳業メーカーに勤務。その後大学院の博士課程を修了、農学博士。平成7年に新潟県醸造試験場に入庁し、微生物や乳酸菌、日本酒の異臭などを研究。平成28年に新潟県醸造試験場第7代場長に就任。



瀨戸晶成(せと・あきなり)

昭和34年(1959)、神奈川県藤沢市生まれ。中央大学理工学部卒業後、工業系メーカーなどを経て、平成7年に緑川酒造入社を機に、妻の実家がある新潟県に移住。管理部部長。さかすけ委員会では準備委員会時代から現在まで委員長を務める。新潟清酒学校講師(数学・物理・化学担当)。



〔聞き手・文〕

高橋真理子:群馬県出身。大学卒業後、絵本、生活情報誌『レタスクラブ』編集部を経て、結婚を機に新潟へ移住。フリーの編集・ライターとして『るるぶ』『新潟発』に関わり、新潟の食と酒の魅力を伝える出版社・株式会社ニールを設立。『cushu手帖』、『新潟発R』を発行。著書は『ケンカ酒 新潟の酒造り 小さな蔵の挑戦』。現在も四季折々の新潟の美味に感激し、堪能する日々を送る。



〔お問い合わせ〕

今回の取材は、新潟県雪国の発酵食文化発信事業の一環で取り組みました。

新潟県農林水産部食品・流通課
025-280-5963